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名古屋地方裁判所 昭和45年(行ウ)22号 判決 1974年9月11日

愛知県豊橋市松葉町一丁目七五番地

原告

小林敏一

右訴訟代理人弁護士

今井文雄

関口宗男

同県同市吉田町一六番一号

被告

豊橋税務署長

鈴木信雄

右訴訟代理人弁護士

入谷規一

右指定代理人

樋口錆三

井上昇

服部一磨

主文

一、被告が原告の昭和三九年分ないし同四一年分各所得税について昭和四二年六月二〇日付でなした各更正処分、過少申告加算税および重加算税の各賦課処分中、

(1)  昭和三九年分所得税につき、総所得金額を四六八万〇、七三七円、所得税額を一四一万八、六〇〇円とする更正処分のうち、総所得金額につき四三三万二、六一五円、所得税額につき課税総所得金額を四〇三万八、一二五円として算定した税額を各超える部分および過少申告加算税一、〇〇〇円の賦課処分中、右所得税額の超過部分にかかる部分ならびに重加算税三二万三、一〇〇円(但し、裁決により一部取消された後のもの)の賦課処分中、右所得税額の超過部分にかかる部分、

(2)  昭和四〇年分所得税につき、総所得金額を五三六万四、四五三円、所得税額を一七〇万円とする更正処分のうち、総所得金額につき四五七万一、二七三円、所得税額につき課税総所得金額を四二二万二、一一三円として算定した税額を各超える部分および過少申告加算税一、八〇〇円の賦課処分中、右所得税額の超過部分にかかる部分ならびに重加算税四三万九、八〇〇円(但し、裁決により一部取消された後のもの)の賦課処分中、右所得税額の超過部分にかかる部分をいずれも取消す。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

(原告)

「一、原告の昭和三九年ないし同四一年分の各所得税につき、被告が昭和四二年六月二〇日付でなした各更正処分および過少申告加算税ならびに重加算税の各賦課処分をいずれも取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

(被告)

「原告の請求をいずれも取消す。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二、当事者の主張

(請求の原因)

一、原告は愛知県豊橋市松葉町一丁目七五番地においてバー仲よ志を営む者であるが、昭和三九年ないし同四一年分の各所得税についていずれもその法定期限内に別表一(課税処分表)の確定申告額欄のとおり各確定申告をなした。

二、被告は、右係争各年分につき、昭和四二年六月二〇日同別表の更生および賦課決定額欄のとおり更正処分および過少申告加算税ならびに重加算税の各賦課処分(以下、本件各課税処分という)をなした。

三、原告は、昭和四二年七月一五日被告に対し、本件各課税処分について異議申立をなしたところ、被告は同年一〇月一四日付でこれを棄却する旨の裁決をなし、その頃原告に通知した。

四、そこで原告は、さらに、同年一一月一四日付で名古屋国税局長に対し審査請求をなしたところ、同局長において昭和四五年三月一二日付で係争各年分の更正処分および過少申告加算税賦課処分に対する審査請求を棄却し、同別表裁決額欄のとおり係争各年分の重加算税賦課処分の一部を取消した。

五、しかしながら、本件各係争年分における原告の所得はいずれも申告額を超えないものであるから、本件各課税処分は違法であり、取消されるべきである。

(請求原因に対する認否)

請求原因一ないし四の事実は認める。

(被告の主張)

一、原告の営業内容(昭和四〇年分、同四一年分における三洲庵の所得の帰属について)。

原告は、愛知県豊橋市松葉町一丁目七五番地においてバー「仲よ志」を経営するかたわら、昭和四〇年一〇月一五日頃から、同町二丁目四〇番地において飲食店「三洲庵」を経営するに至つたものである。右三洲庵の実質的な経営者すなわちその収益の享受者は原告の長男訴外小林啓弘(以下、訴外啓弘という)ではなく原告であると判断したのは、次の理由による。

1. 原告名義の銀行借入れの返済が原告名義の預金と訴外啓弘名義の預金からそれぞれ同額づつ返済されていること。

2. 原告名義の普通預金、訴外啓弘名義の普通預金および原告の仮名預金の入出金が別表二(預金運用事績表)および別表三(積立預金の設定状況表)のとおり総合的に連けいし、資金の運用が図られていること。

3. 三洲庵の土地、建物はいずれも昭和四〇年中に原告が取得したもので、公簿上の名義も原告になつていること。

4. 三洲庵の営業開始に至るまでの準備はすべて原告が行ない、訴外啓弘は開店当時二〇歳に達したばかりで飲食店業の経験は全くなかつたこと。

5. 電気、ガス、水道等の契約はすべて原告名義によりなされており、調理士免状も原告の名義になつていること。

6. 訴外啓弘は原告と生計を一にしており、原告の昭和四〇年分所得税確定申告書にも原告の扶養親族として申告されていること。

7. 三洲庵は昭和四二年一二月二七日有限会社に組織変更されたが、その代表取締役は原告自身であつて訴外啓弘ではないこと。

二、推計の許容性について。

被告は、原告の本件各係争年分の所得調査のため、係員をして実地に調査せしめたところ、原告は係争各年分の金銭出納帳、原始記録の一部を保存するのみで完備した継続記録はなかつた。

而して、調査の進捗にともない発見された架空名義普通預金および日掛預金の預け入れ・引出しが原告保存の金銭出納帳に反映していなかつたので、係員の質問に対する原告の応答をもつて計算を行なう方法を試みたが、適格な回答が得られず、さらに、異議申立、審査請求に対する調査の過程で原告から提出された資料はそれぞれその金額に大巾な差異があつて信が置けず、加えて昭和三九年分および同四〇年分の金銭出納帳を焼却してしまうなど、調査に対する原告の協力が得られなかつたので、やむを得ず、架空名義預金の入金および出金を解明する一方、取引先等についても資料を収集し、本件各課税処分時に確認した数値等調査の全過程を通じて知り得たものに基づいて、推計により係争各年分の所得を算定したものである。

三、売上金額の算出について。

1. 日々の取引が主として現金取引の営業形態の場合に、営業上の売上金を簿記的に分解すると、売上金は一且手持現金となつた後、<1>仕入れの支払いに充てる、<2>経費の支払いに充てる、<3>家計費の支払いに充てる、<4>資産の取得に充てる、<5>負債の返済に充てる、そして余剰が<6>手持現金に加えられるから、<1>ないし<6>の各項目毎にその数類を把握し、それを合計したものが売上金額となる理である。

本件の場合、銀行預金の入出金を銀行の記録に基づいて可能な限り解明し、個々の取引の不明な項目については総額により前記<1>ないし<6>の各項目の数額を求めて加除算を行なうことにより係争各年分の売上金額を算出した。

2. 昭和三九年分売上金一、〇五五万九、二八八円

最初に預金への流入資金を売上金に限定する必要があるが、預金入出金について取引内容のすべてを項目別に解明することができないため、預金相互の振替入金および資産の処分による入金については総額により後に除算(注一参照)することとし、とりあえず流入資金源を売上金、預金相互の振替金および資産処分金の三項目に絞り、別表五(預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表昭和三九年分)のとおり名古屋相互銀行豊橋支店における原告名義の普通預金口座および高光積名義の普通預金口座(原告の仮名預金)への昭和三九年中の総入金額ならびに佐藤大吉名義(原告の仮名預金)および原告名義(二口)の各積立預金への総入金額の合計一、二〇〇万四、四八七円(別表五の<ア><イ><ウ>の入金総額欄の合計)から、明らかに売上金以外のものと認められる入金額五〇六万一、六三七円(別表<ア><イ><ウ>の入金経路の明らかとなつたものの明細欄の合計)を控除して得た入金経路不明の金額六九四万二、八五〇円(別表五の<ア><イ><ウ>の差引入金経路不明のもの欄の合計)をAとし、

次に預金支出のうち使途が明らかになつたものを支出項目毎に仕訳整理し、これを各項目の支出総額から控除して得た各項目の現金支出総額六三七万三、六一八円(別表四各年分売上金額の計算表の<ア>)をBとし、

次に総額から控除すべき振替入出金額および資産の処分による入金額は、前記普通預金口座より昭和三九年中に支出された金額七八二万五、三九九円から使途の明らかとなつた六五四万八、二一九円を控除することにより使途不明額一二七万七、一八〇円(別表六預金出金のうち支出先不明の金額抽出表昭和三九年分の<ウ>)を求め、この額と土地売却代金中昭和三九年に入金となつた一四八万円(別表九土地売却代金の入金状況表の<ア>)を加えてこれをCとし、

A+B-Cの算式により求めた金額一、〇五五万九、二八八円(別表四昭和三九年分売上A+B-C)をもつて、昭和三九年分の売上金額としたものである。

注一、算式中Cを控除することについて

Cは預金の引出しで使途不明のものおよび土地売却代金であるが、この現金はそのまま経費等の支払いに充てられていればその分だけBの計上が過大となつており、預金されていれば経路不明の入金としてAに重複して含まれることになる。そこで重複計上を避けるため、一且Cを無視して各項目の数額を求め、後に総額によりCを控除することとしたものである。

注二、前記各項目のうち、<5>負債の返済は昭和三九年中にはなく、<6>手持現金は期首、期末とも同額であるため、いずれも当該年分の計算には関係がない。

3. 昭和四〇年分売上金一、二四五万二、五〇五円

A 入金経路不明の金額 九九八万〇、〇八〇円(別表七<オ>)

B 現金支出の計 八五九万三、四二五円(別表四<イ>)

C 重複計上の除算

使途不明金につき 三六一万一、〇〇〇円(別表八<エ>)

土地売却代金につき 二五一万円 (別表九<イ>)

となり、前同様の算式により求めた一、二四五万二、五〇五円(別表四昭和四〇年分当該欄)をもつて、昭和四〇年分の売上金額としたものである。

4. 昭和四一年分売上金一、八八五万八、五五四円

A 入金経路不明の金額 一、三三三万八、三四一円(別表一〇<キ>)

B 現金支出の計 一、一五五万五、六八〇円(別表四<ウ>)

C 重複計上の除算 六〇三万五、四六七円(別表一一<カ>)

となり、前同様の算式により求めた一、八八五万八、五五四円(別表四昭和四一年分当該欄)をもつて、昭和四一年分の売上金額としたものである。

そして、右に基づき係争各年分の営業所得額を算定したところ、別表一二(各年分営業所得計算表)のとおり、昭和三九年分は四八八万七、一一五円、同四〇年分は五四一万七、三七三円、同四一年分は七三五万五、八三一円となつた。従つて、右金額の範囲内でなされた各更正処分および過少申告加算税賦課処分には何ら違法はない。

四、重加算税について。

原告は、別表一三(仮装隠ぺいにかかる売上金額計算表)の「仮名預金のうち入金経路不明の額」欄内訳に示した仮名預金を訴外名古屋相互銀行豊橋支店に開設し、日々の売上金のうちから右各仮名預金に預け入れ、もつて所得税の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、その仮装隠ぺいしたところに基づいて係争各年分の確定申告書を提出したものであり、その仮装隠ぺいにかかる所得金額は同表当該欄のとおりであるから、国税通則法六八条を適用して算出した重加算税は別表一四(重加算税計算表)のとおりとなる。

従つて、係争各年分について右金額の範囲内でなされた重加算税賦課処分(審査裁決により一部取消後のもの)は適法である。

(被告の主張に対する原告の認否および原告の主張)

一、三洲庵より生じた所得の帰属について。

三洲庵は訴外啓弘が実質的に経営し、その収益を享受していたものであつて、これを原告の所得に加算することは違法である。原告は、長男である訴外啓弘が高卒後飲食会営業により自活できるよう計画し、土地建物の購入をはじめ準備万端整え、右啓弘の満二〇歳直後を期して三洲庵を開店営業させた。右啓弘は原告から店舗を借り受け若干の運転資金の贈与を受けたほかは、右店舗に居住し、保健所に対する届出も自己名義でなし、経営者としてその収支一切を管理し、その収入により独立の生計を営み、原告経営の「仲よ志」の収支と混同することはなかつたものである。従つて、三洲庵の営業から生じた所得は同人に帰属する。

1. すなわち、被告主張一項1の事実は認める。

三洲庵開店当時原告は名古屋相互銀行豊橋支店からの借入金があり、毎月返済していた。他方、訴外啓弘は三洲庵の売上金を自己名義の預金として同銀行支店に預金していた。ところで訴外啓弘は、原告に対し三洲庵店舗の家賃として毎月七万円を支払う約束になつていたところ、原告の求めにより、自己の預金口座から直接原告の借入金返済の一部として同銀行支店へ支払つていた。

従つて、訴外啓弘名義預金口座からの借入金弁済は、実質的には原告に対し支払うべき家賃の振替であるに過ぎず、これをもつて原告が三洲庵の売上を自由に支配していたということはできない。

2. 同項2の事実は否認する。

3. 同項3の事実は認める。しかしながら、原告が三洲庵土地建物を取得したのは、成年に達した訴外啓弘に飲食店を開業させることにより将来の独立した生計を営ませるためであり、またそれゆえに、同人は毎月七万円の家賃を払つていたものである。

4. 同項4の事実は認める。しかし、若年かつ未経験の息子が初めて開業する場合、開業準備万端を父親たる原告が行なうのは当然であり、開店後の所得の帰属とは無関係である。

また、飲食店経営未経験者でも、菜めし、田楽専門店である三洲庵は経験者を雇用して経営すればたり、さほど高度の知識経験は要しない。

5. 同項5の事実中、電気、ガス、水道等の契約がすべて原告名義でなされていることは認めるが、調理士免状が原告名義であることは否認する。

訴外啓弘は昭和四〇年一一月調理士資格を取得し免状も調理場に掲げられているし、三洲庵の商号登記名義人および飲食営業の届出名義人も訴外啓弘である。

6. 同項6の事真中、訴外啓弘が昭和四〇年一〇月一五日(三洲庵開店時)以前原告と生計を一にしていたことおよび原告が主張のような申告をしたことは認めるが、開店時以降生計を一にしていない。ただ、同年一二月までは訴外啓弘に所得がなかつたため、原告は昭和四〇年分所得の確定申告書において訴外啓弘をその扶養親族として申告したに過ぎない。

7. 同項7の事実は認める。しかし、三洲庵売上金の帰属について被告の誤解による将来の紛争を避けるため、やむなく三洲庵を会社組織に改めたわけであつて、むしろ「仲よ志」とは別会計であることを物語るものである。

二、売上金額の算出方法について。

1. 別表四(各年分売上金額の計算表)のA入金経路不明の額は各年分とも否認する。B現金支払額内訳のうち三洲庵の仕入、経費を原告が支出したとの点は否認し、その余の事実は認める。C重複計上分の除算内訳のうち、使途不明金は各年分とも否認する。

2. 別表五(預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表 昭和三九年分)中一、名古屋相互銀行豊橋支店小林敏一普通預金関係はすべて認める。

同表中二、同銀行支店高光積普通預金関係のうち、各月区分に応じた入金総額欄、入金経路の明らかとなつたものの明細欄記載の各金額はすべて認める。

しかし、右以外に、入金経路の明らかな分として、従業員に対する立替金の返済一七万三、一〇〇円がある。従つて、昭和三九年分における入金経路の明らかなものの合計は四八四万九、一一五円、入金経路不明分は三八二万一、八五〇円である。

同表中三、同銀行支店諸預金関係はすべて認める。

3. 別表六(預金出金のうち支出先不明の金額抽出表 昭和三九年分)の各普通預金関係はすべて認める。

4. 別表七(預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表 昭和四〇年分)中一、同銀行支店小林敏一普通預金関係はすべて認める。

同表中二、同銀行支店小林啓弘普通預金が原告のものであることは否認、その余は不知。

同表中三、同銀行支店高光積普通預金関係はすべて認める。

しかし、右以外に、入金経路の明らかな分として、従業員に対する立替金の返済二〇万〇、四四六円、および銀行借入金と土地購入代の差額の預け入れである昭和四〇年一〇月三一日一一万円の計三一万〇、四四六円がある。

従つて、昭和四〇年分における入金経路の明らかなものの合計は五七九万六、三五八円、入金経路不明分は五二三万七、三六四円である。

同表中四、同銀行支店諸預金のうち小林啓弘名義の日掛預金を除き他はすべて認める。同人名義の右預金が原告のものであることは否認、その余は不知。

5. 別表八(預金出金のうち支出先不明の金額抽出表 昭和四〇年分)中一、同銀行支店小林敏一普通預金関係はすべて認める。

同表中二、同銀行支店小林啓弘普通預金が原告のものであることは否認、その余は認める。

同表中三、同銀行支店高光積普通預金関係はすべて認める。

6. 別表九(土地売却代金の入金状況表)の事実はすべて認める。

7. 別表一〇(預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表 昭和四一年分)中一、同銀行支店小林敏一普通預金関係はすべて認める。

同表中二および三同銀行支店小林啓弘の各普通預金が原告のものであることは否認、その余は認める。

同表中四、同銀行支店高光積普通預金関係はすべて認める。

同表中五、同銀行支店野沢実普通預金関係のうち各月区分に応じた入金総額欄、入金経路の明らかとなつたものの明細欄記載の各金額はすべて認める。

しかし、右以外に、入金経路の明らかな分として、従業員に対する立替金の返済六万四、七八〇円がある。従つて、昭和四一年分における入金経路の明らかなものの合計は三六七万九、七四二円、入金経路不明分は二〇八万円である。

同表中六、同銀行支店諸預金のうち、小林敏一、高木康弘、中村勝、岡本昌宏、増田恵子、浅野恵美子および大橋良夫各名義の預金が原告のものであることは認めるが、その余の各名義預金が原告のものであることは否認する。

三、推計方法の不合理性について。

被告の用いたいわゆる銀行預金高法は、仮名の預金口座が存在しそれが専ら売上の隠ぺいに利用される場合とか、事業主が銀行預金通帳を売上帳と同一の機能をもつて利用しているなど特別の事情が存する場合に限り是認されるに過ぎない。原告は、仲よ志の経営以外にも諸種の経済活動を行ない、必然的に金銭の出入りが少なくない。しかして、原告名義の普通預金と高光積、野沢実各名義のそれの出入り、振替等の状況からみて、右実名普通預金への入金のうち銀行借入金など例外的なもの以外は、専ら仲よ志の売上金が源泉であると推定できるのに反し、右仮名普通預金への入金経路不明分が果して仲よ志の売上金を源泉とするかについては多くの疑義がある。

さらに、本件推計方法は、(1)前記のとおり山本洋、太田賢、白川幸男、鳥山仁および訴外啓弘名義の各積立預金が原告のものではないこと、(2)高光積ほか九名の原告仮名預金には、原告名義の預金からの振替分を除き、仲よ志の売上金は入金されていないこと、(3)原告およびその仮名諸預金への入金のうち、被告主張の入金経路不明分以外に、本件係争各年以前より存在する原告の手持現金、定期預金満期により得た現金、貸金(その資金出所は主として株式売却代金)または立替金回収分および株式処分代金等による入金があり、従つて被告主張の入金経路不明分の計算は過大であること、(4)預金出金のうち本来支出先不明のものを判明分としているものがあり、従つて、被告主張の支出先不明金額の計算は過少であることにより、承服できない。

要するに、被告の用いた銀行預金高法による営業所得の推計結果は過大であつて、各項目について、右方式による原告の主張は別表一五(原告主張の営業所得計算表)のとおりである。

以上のとおり、被告が仲よ志の所得推計に当たり採用した銀行預金高法は、その方法を用いたこと自体疑義があり、しかもその計算結果に至つては仲よ志の実態と近似していないから、何らの合理性もない。推計課税に当たつては、推計の方式自体に疑義のないことは勿論、数ある推計方式のうちから恣意的にその一を選択することは許されず、それが実態に最も近似する方式であることの証明がない限り違法である。

四、被告の主張四項目重加算税についての主張事実はすべて否認する。

(原告の主張に対する被告の認否および反論)

一、三洲庵より得る所得の帰属

1. 原告の主張一項冒頭部分について。

原告は、訴外啓弘が三洲庵の経営者としてその収支一切管理し、原告経営の仲よ志の収支と混同するようなことはなかつた旨主張する。

しかしながら、(一)訴外啓弘の申立によれば、三洲庵関係の収支について昭和四〇年分の記帳はなく、昭和四一年分の記帳状況についても、当初仕入帳売上帳と経費の一部を記帳したものがある旨答えながら、後に、売上日計表はつけていたが仕入れ、経費帳は昭和四一年九月までつけていなかつたと答えていること、(二)現金商売でありながら昭和四〇年分、同四一年分とも金銭出納帳がなく、管理に具体性がないこと、(三)訴外啓弘名義の普通預金のうち昭和四一年一月二五日付支出について、同人は父のいうとおり出金したと述べていること、(四)右預金が昭和四一年一〇月二九日に解約され、残金一九万六、八二二円のうち一八万三、五〇〇円が同日付で新規開設された訴外啓弘名義の普通預金に引継がれ、差額一万三、三二二円が原告の仮名野沢実名義の普通預金に預け入れられている点について納得できる説明がなされないこと、などの事実からして、原告主張のように訴外啓弘が独立して三洲庵の経営にあたつていたとはいえない。

2. 同一項1について。

原告は、三洲庵の建物を訴外啓弘に賃貸し、賃料を月七万円と定めた旨および当該賃料の決済方法として、原告の名古屋相互銀行豊橋支店からの借入金につき、原告が毎月支払う返済金(利息を含む)の半額を負担させる方法によつていた旨主張する。しかるに、原告が昭和四二年九月五日被告に提示した昭和四一年分仲よ志の金銭出納帳によれば、右賃料は毎月現金にて受領している旨の記載があるから、原告の主張はこの点で矛盾する。

右は、賃料について実際の金銭の動きのなかつたことおよび原告の意思によつて記録がいかようにも操作されることを示したものであり、形式的に両者の間で賃貸契約書が作成されているとしても実質的にはかような契約はないといわざるをえない。

なお、昭和四〇年分、同四一年分の原告の所得税確定申告書には不動産所得の申告が全くない点を指摘しておく。

3. 同一項4について。

原告は、事業経営について菜めし、田楽の専門店である三洲庵は経験者を雇用して経営すれば充分であつて、さほど高度の知識経験は必要でない旨主張する。

しかし、飲食店の経営は、料理、客の接待を含め、経営の方針とか資金の運用さらには労務管理に至るまですべて自ら意思決定を行ないうる程度の知識経験を必要とするもので、訴外啓弘のように満二〇歳に達したばかりの未経験者にそのような判断が可能であるとはいえない。

4. 同一項6について。

原告は、訴外啓弘が三洲庵開店後両親と別居して右店舗に居住し、独立の生計を営んでいた旨主張する。しかし、(一)住民登録によれば訴外啓弘は原告の住所地に原告の世帯員として登録されており、(二)訴外名古屋国税局協議官今井英二および同西江進がそれぞれ昭和四三年二月と同四四年二月に三洲庵へ赴いたところ、訴外啓弘はいずれも不在で原告の住所から調査立会のため来店したものであり、(三)右今井協議官の調査の際、訴外啓弘が寝起きしているという部屋には生活用調度品は見当らなかつたものであるから、訴外啓弘が生計を別にしていたとみることはできない。

5. 同一項7について。

原告は、三洲庵を有限会社に組織変更した事実をもつてそれ以前の時期における仲よ志と三洲庵の会計が厳然区別されていた証左である旨主張するが、同一の経営者が分離して別会社になる例を挙げるまでもなく、三洲庵の計理が分離していなければ会社を設立できないという筋合ではない。

二、売上金額算出について。

1. 入金経路不明の額

原告主張の従業員に対する立替金の返済入金があるとの点および原告仮名預金の中に銀行借入金と土地購入代金との差額一一万円(昭和四〇年一〇月三一日預け入れ)があるとの点は、いずれも否認する。

2. 現金支出総額

原告は、被告の家事費計上額が過大であり、昭和三九年分四三万一、六五四円、同四〇年分八一万七、六二〇円、同四一年分五九万二、〇六〇円を減額すべきであると主張する。

ところで、家事費については、被告は昭和四六年一月二九日付準備書面(二)別表四において、昭和三九年分九一万一、六五四円、同四〇年分一二九万七、六二〇円、同四一年分一〇七万二、〇六〇円と主張したが、これに対し原告は、昭和四六年五月二八日付準備書面(第二回)第一の四(一)B項において被告の右主張を認め、これを自白したものであるから、原告が家事費を月四万円とする新たな主張をなすのは自白の撤回にあたり、被告はこれに対し異議を述べる。

仮りに、右自白の撤回が許されるとしても、原告主張の金額は過少である。すなわち、原告には家事費に含まれる租税公課および医療費だけでも昭和三九年分二一万五、六八〇円、同四〇年分三三万七、六二〇円、同四一年分三五万〇、一一〇円の支出があるから、原告の主張によればいわゆる生活費はその主張の各年四八万円から右租税公課および医療費を控除した残額となり、その額は昭和三九年分二六万四、三二〇円、同四〇年分一四万二、三八〇円、同四一年分一二万九、八九〇円であつて、原告家族六名(昭和四〇年一〇月からは五名)の各一年間における生活費としては過少であることが明らかである。

3. 重複計算の除算分について。

(一) 原告は、被告主張の金額のほかに、別表一五原告主張の営業所得計算表一、昭和三九年分(一)売上金額の計算C重複計上分の除算欄のとおり、昭和三九年分期首に二五四万円の手持現金(昭和三八年一二月二一日土地売却代五七万円、高光積普通預金より同年一一月四日から同年一二月末までの引出分の計)があると主張する。

しかし、原告は審査請求時、通知預金解約入金がその出所である旨述べながら、その理のないことが明らかになると、何らの説明をしなかつたものであつて、手持現金の出所が原告主張のような預金の引出しや土地売却代金であるならばその当時でも容易に説明できた筈である。

また、原告主張のとおり期首現金在高を銀行預金高法に組み入れるならば、期末現金在高も同様組み入れる必要があり、昭和三九年の期首のみならず係争各年分の期首・期末の在高がすべて明確にされなければならない。

ところが、係争各年分の原始記録がない原告の場合はその計算は不可能であつて、このような場合にはむしろ、係争各年分の期首・期末の在高は同額とみるのが妥当である。加えて、原告主張期首手持現金の出所が昭和三九年分期首当時における預金のうごきおよび銀行借入の事情に照らし、著しく不自然かつ不合理である。

(二) 松橋悟に対する貸付金の返済入金(昭和三九年分九〇万円、同四一年分四〇三万円)については否認する。

(三) 定期預金の解約入金(昭和四〇年八月三一日三〇〇万円、同年一二月六日一〇〇万円)について、主張の定期預金解約があつたことは認める。しかし、その使途は、原告使用の庭石、植木の支払いと原告長女の嫁入り仕度の支払いであつて、いずれも家計費に属し、事業所得の計算には直接関係がない。

(四) 株式売却代金の入金(昭和四〇年九月一六日二五万六、〇〇〇円、同年一〇月二一日一三万五、一〇〇円、同月二六日四七万四、〇〇〇円)については不知。

第三、証拠

(原告)

甲第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証の一、二、第六ないし第一〇号証、第一一ないし第一三号証の各一、二、第一四、一五号証、第一六号証の一ないし三四、第一七、一八号証、第一九号証の一ないし四、第二〇号証の一、二を各提出し、証人小林啓弘、同小林なみ江、同松橋悟および同杉田正造の各証言、原告本人尋問の結果をそれぞれ援用し、乙第一ないし第九号証、同第一四ないし第二四号証、同第二五号証の一ないし一七、同第二六号証の一、二、同第二七、二八号証、同第三一ないし第三五号証、同第三七ないし第四〇号証の各成立(但し、同第一ないし第九号証、同第一四ないし第二三号証、同第三一ないし第三四号証は原本の存在と成立)を認め、その余の乙号各証の成立は不知。

(被告)

乙第一ないし第二四号証、第二五号証の一ないし一七、第二六号証の一、二、第二七、二八号証、第二九号証の一ないし七、第三〇号証の一ないし七、第三一ないし第四三号証を提出し、証人今井英二、同西江進および同小柳津一成の各証言を援用し、甲第一三号証の一、二、同第一四号証、同第一六号証の三ないし二三、同第二〇号証の一、二の各成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、請求原因一ないし四の各事実(本件各課税処分とこれに対する異議申立・裁決の経過)については、当事者間に争いがない。

二、そこで、被告は、原告がバー仲よ志を経営する一方昭和四〇年一〇月一五日頃から飲食店三洲庵を経営しそれより得る所得はすべて原告に帰属する旨主張し、原告は三洲庵の経営者が同人の長男訴外啓弘である旨抗争するので、まずこの点について判断する。

1. 証人小林啓弘の証言および原告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く)ならびに弁論の全趣旨によれば、訴外啓弘は原告の長男であるが、高校時代失明し角膜移植により辛うじて視力を回復しようやく卒業したこと、原告は訴外啓弘のこのような事態に鑑み、昭和四〇年九月頃仲よ志の近隣に土地を求めて店舗一棟を新築し(右土地建物が原告の所有であり登記名義も原告であることは争いがない)、訴外啓弘満二〇歳の誕生日直後の同年一〇月一五日、専ら菜めし、田楽を客に供する飲食店三洲庵が開店されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2. 三洲庵の営業開始に至るまでの準備はすべて原告が行ない、三洲庵の電気、ガス、水道等の契約がすべて原告名義でなされていたこと、他方、訴外啓弘は開店当時成年に達したばかりで飲食店経営の経験は全くなかつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

ところで、原告は、飲食店経営未経験者であつても菜めし、田楽を専門とするものであるから経験者を雇用して経営すればたりる旨主張するが、飲食店という事業の経営には、単に料理を作つて客に提供するだけではなく、運転資金の捻出運用はもとより経営の方針さらには労務管理に至るまで合理的な判断をなすに必要な相応の知識経験が要求されるものであることは経験則上明らかであるから、原告の右見解は採用することができない。

もつとも、証人小林啓弘の証言中、訴外啓弘はすでに昭和三九年暮頃調理士の資格を取り、また保健所に対する営業の届出も同人名義でなされているとの供述に徴し、このような事実があるとしても、後述の判断に反し同人を三洲庵の経営者であると速断することはできない。

3. 訴外啓弘が昭和四〇年一〇月一五日以前原告と生計を一にしていたことおよび原告が昭和四〇年分所得税確定申告書に原告の扶養親族として申告したことは当事者間に争いがなく成立に争いのない乙第二七、二八号証および証人今井英二、同西江進の各証言ならびに弁論の全趣旨によれば、原告の住民登録には訴外啓弘が原告の住所地にその世帯員として登録されており、訴外名古屋国税局協議官今井英二および同西江進がそれぞれ昭和四三年二月と同四四年二月に三洲庵へ調査に赴いたところ、訴外啓弘は同店には居らず原告方から調査立会のため来店したこと、右今井協議官の調査の際、訴外啓弘が寝起きしているという部屋には生活用調度品は見当たらなかつたこと、さらに三洲庵開店日から少し経過した昭和四〇年一一月二九日に同店従業員小林豊美夫婦が原告方から三洲庵所在地である豊橋市松葉町二丁目四〇番地の二へ転居した旨の記載のあることが認められ、加えて成立に争いのない甲第二号証によれば、昭和四一年九月九日原告と訴外啓弘との間で作成された三洲庵店舗賃貸借契約公正証書における訴外啓弘の住所も原告方にしていることが認められ、右認定に反する証人小林啓弘の証言および原告本人尋問の結果はいずれも措信できない。右認定したところによれば、訴外啓弘は三洲庵開店後も原告と同居しこれと生計を一にしていたものというべきである。

4. 原告名義の銀行借入れの返済が原告名義の預金と訴外啓弘名義の預金からそれぞれ同額づつ返済されていることは当事者間に争いがない。ところで、原告はこの点につき、三洲庵の店舗を訴外啓弘に賃料月七万円で賃貸し、その支払方法として原告の名古屋相互銀行豊橋支店からの借入金につき、原告が毎月支払う返済金の半額を負担させていた旨主張する。

而して成立に争いのない甲第二号証によれば、なるほど原告と訴外啓弘間において三洲庵店舗の賃貸借契約公正証書も存在し、かつ訴外啓弘は同人名義の普通預金から昭和四一年八月二九日支出された一〇万五、〇〇〇円の使途につき七万円は原告に対する同月分の家賃、残額はお礼であるとする同証人の供述部分はあるが、原本の存在および成立に争いのない乙第四号証、成立に争いのない乙第三七号証によれば、昭和四一年八月二五日付で原告から訴外啓弘宛同月分の家賃を受領した旨の領収証が作成されていることを認めることができるので、訴外啓弘は同月分の家賃を二回支払つたこととなつて矛盾して右供述は措信できず、また右主張に沿う原告本人尋問の結果も、原告の昭和四〇年分および同四一年分所得税確定申告に当たり、不動産所得の申告がなされていないこと、および原告が昭和四二年九月五日被告に提示した昭和四一年分の仲よ志関係金銭出納帳によれば右賃料は毎月現金にて受領している旨の記録があること(原告はこれらの事実について格別争わない)、および店舗の関係だけ賃貸借契約公正証書が作成され、その敷地やさらには什器備品関係の賃貸借契約書の作成された形跡が全く窺われない点などに照らすと、措信できない。その他に原告の右主張を認めさせるにたりる証拠はない。従つて、右公正証書の存在をもつて直ちに原告主張の賃貸借契約の存在を認めることはできない。

5. 名古屋相互銀行豊橋支店に対する高光積、野沢実各名義の普通預金、佐藤太吉、岡本昌宏、中村勝、高木康弘名義の積立預金、佐藤太吉、黒田誠一、高光栄、佐藤大作、佐藤太市、高光積各名義の定期預金および高光積名義の各通知預金がいずれも原告の仮名預金であることは当事者間に争いがなく、証人小柳津一成の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる乙第三六号証ならびに弁論の全趣旨によれば、同銀行支店に対する山本洋、太田賢、白川幸男および鳥山仁名義の各積立預金は原告の仮名預金であることが認められ、原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は右各証拠に照らしたやすく信用することができない。さらに、原本の存在および成立に争いのない乙第三ないし第五号証、同第七号証ならびに証人西江進、同小柳津一成の各証言によれば、同銀行支店に対する小林啓弘名義の普通預金(No.一二一三二)から昭和四一年一月二五日付で支出された三万〇、七七一円および三万五、〇〇〇円について訴外啓弘の調査に対する回答は曖昧であり、結局はよく判らず父のいうとおりに出金した旨答えていること、右番号の普通預金が昭和四一年一〇月二九日に解約され、残金一九万六、八二二円のうち一八万三、五〇〇円が同日付で新規開設された小林啓弘名義の普通預金(No.一三〇六二)に引継がれ、差額一万三、三二二円が同日付で原告仮名野沢実名義の普通預金に預け入れられた事実が認められるのに対しこの経緯についても訴外啓弘は納得できる説明ができなかつたことがそれぞれ認められるので、同銀行支店に対する小林啓弘名義の預金もすべて原告の預金であるとみるのが相当である。そして、右事実に原本の存在および成立に争いのない乙第八、第九号証、同第一四ないし第二三号証、小柳津一成の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇ないし第一三号証ならびに弁論の全趣旨を総合すると、右各預金相互の資金運用関係、積立預金設定状況はそれぞれ別表二(預金運用事績表)および別表三(積立預金の設定状況表)のとおりであることが認められ、以上認定の各事実を勘案すると、原告名義の普通預金、小林啓弘名義の普通預金および原告所有の仮名預金の入出金が総合的に連けいし資金の運用が図られているものとみることができる。

6. 前記二5において認定した事実に加え、原本の存在および成立に争いのない乙第六、第七号証ならびに証人今井英二、同西江進の各証言によれば、訴外啓弘は三洲庵関係の収支について昭和四〇年分の記帳はない旨答え、同四一年分の記帳状況についても仕入帳売上帳と経費の一部を記帳したものがある旨答えながら、その後において、売上日計表はつけていたが仕入帳、経費帳は昭和四一年一〇月まではつけていなかつた旨答え、一貫性に欠けること、現金商売でありながら前記両年分とも金銭出納帳がなく管理に具体性がないことが認められ、これらの事実に、証人小林啓弘の証言中啓弘自ら運転資金計画や什器備品の金額面を明らかにすることができないとの供述などに照らすと、本件係争各年における三洲庵の収支一切について訴外啓弘は関知することなく、原告がこれをなしていたとみるのが相当である。

7. ところで、三洲庵は昭和四二年一二月二七日有限会社に組織変更されたが、その代表取締役は原告自身であつて訴外啓弘ではないことは当事者間に争いがない。

以上の諸事情を総合勘案すると、原告は父親として、視力十分でない息子啓弘の行く末を按じ、いずれ三洲庵の経営を右啓弘に任せ独立して生計を営むことができるようにしたい心情であつたと推測されるが、三洲庵開店前後の経緯と原告の果たした役割ないしは活動状況、就中、小林啓弘名義の預金をも含め原告仮名預金相互の資金関係が原告により総合的に運用されている点、ならびに何といつても訴外啓弘は若年かつ飲食店経営については未経験であつて、営業方針、資金計画、労務管理等に関する判断力を未だ十分に備えていないと思料される点などに徴すると、将来三洲庵の営業が軌道に乗りその基盤が築かれるに至るまでは少なくとも係争各年(昭和四〇年、同四一年)中は、三洲庵の実際の経営者でありその収益の享受者は原告自身であるとみるのが相当である。

三、推計方法の許容性について。

証人今井英二、同西江進の各証言によれば、被告が原告の本件係争各年分所得調査のため係員をして実地に調査させたところ、原告は係争各年分の金銭出納帳、原始記録の一部を保存するのみで完備した継続記録を備えていなかつたこと、その後税務署側の調査が進捗するに伴い発見された原告架空名義普通預金および日掛預金の預け入れ・引出しが原告保存の金銭出納帳に反映していなかつたので、係員の質問に対する原告の応答をもつて計算する方法を試みたが、適確な回答が得られず、さらに、異議申立、審査請求に対する調査の過程で原告から提出された資料にはそれぞれの金額に大巾な差異があり、加えて昭和三九年分、同四〇年分の金銭出納帳を焼却するなど調査に対する協力が得られなかつたので架空名義預金の入金および出金を解明すると共に、取引先等について資料を収集し、調査中確認した数値に基づき係争各年所得金額を算出するについて推計方法を採用したことを認めることができる。従つて、被告が原告の仲よ志および三洲庵の売上金額を右推計により算出したことは相当として許容すべきである。

四、推計方法の合理性について。

被告は、仲よ志および三洲庵の売上金算出につき、原告の預金の入出金を基礎とし、入金経路不明の額に現金支出額を加え、その合計額から重複計上分を控除するいわゆる銀行預金高法によるところ、原告は、右方法は仮名の預金口座が存在しそれが専ら売上の隠蔽に利用される場合、事業主が銀行預金通帳を売上帳と同一の機能をもつて利用するなど特別の事情が存する場合等に限り是認されるに過ぎず、本件では原告仮名預金への入金経路不明分が仲よ志の売上を源泉とするものではないから、右方法を用いたこと自体合理性がない旨主張する。

ところで、一般に商人の利用する預金の資金源は、貯蓄または利殖のための貯蓄預金と営業上の収入・支出との時間的間隙をつなぐため、もしくは不時の事態に備えて余裕資金を預け入れる営業資金たるを問わず、売上金ないしこれから生じた差益利得に依存する度合がすぐれて大であり、従つて、売上金の記帳がその一部にとどまるときは、帳簿記入の売上金は帳簿に記載された預金に、簿外の売上金は預金調査により発見された簿外の別口預金にそれぞれ結びつき易いというべきである。而して、被告の用いた前記銀行預金高法は、単に入金源が不明であるというだけの理由でその収入源を売上金によるものと推定したのではなく、原告または仮名による各預金の入出金を基礎とし、そのうち売上金以外の預け入れであることが明確になつたものおよび一口毎には収入源を特定できないが総額において売上金以外の収入源と認められる金額をそれぞれ預金入金額から控除し、その残額を売上金による入金と推定しているものであるから、その前提となる入金経路不明の額、現金支出額および重複計上分の数額が正確に把握されるならば、合理的な推計方法であるというべきである。

三、右銀行預金高法による売上金額の適否について。

1. 別表四(各年分売上金額の計算表)B現金支払額内訳のうち三洲庵の仕入、経費を原告が支出したとの点を除くその余の事実およびC重複計上分の除算内訳のうち土地売却代金関係、別表五(預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表昭和三九年分)の各預金関係、別表六(預金出金のうち支出先不明の金額抽出表昭和三九年分)の名古屋相互銀行豊橋支店小林敏一名義および高光積名義の各普通預金関係、別表七(預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表昭和四〇年分)中、同銀行支店小林敏一名義および高光積名義の各普通預金関係、同銀行支店諸預金のうち小林啓弘名義の日掛預金を除く預金関係、別表八(預金出金のうち支出先不明の金額抽出表昭和四〇年分)中、同銀行支店小林敏一名義の普通預金関係、同銀行支店小林啓弘名義の普通預金が原告に属することを除きその余の事実、同銀行支店高光積名義の普通預金関係、別表九(土地売却代金の入金状況表)の土地売却関係、別表一〇(預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表昭和四一年分)中、同銀行支店小林敏一名義普通預金関係、同銀行支店小林啓弘名義の普通預金二口が原告に属することを除きその余の事実、同銀行支店高光積名義および野沢実名義の各普通預金関係ならびに同銀行支店諸預金のうち小林敏一、高木康弘、中村勝、岡本昌宏、増田弘子、柴田恵子、浅野恵美子、大橋良夫各名義の預金が原告のものであること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

2. 右争いない各事実に、原本の存在および成立に争いのない乙第一ないし第五号証、同第一四ないし第二三号証、証人小柳津一成の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇ないし第一三号証、同第三六号証、証人今井英二、同西江進、同小柳津一成の各証言を総合すると、(一)昭和三九年分における預金入金のうち入金経路不明額明細は別表五(預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表昭和三九年分)のとおりであり、同年分における預金出金のうち支出先不明額明細は別表六(預金出金のうち支出先不明の金額抽出表昭和三九年分)のとおりであり、(二)同四〇年分における預金入金のうち入金経路不明額明細は別表七(預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表昭和四〇年分)のとおりであり、同年分における預金出金のうち支出先不明額明細は別表八(預金出金のうち支出先不明の金額抽出表昭和四〇年分)のとおりであり、(三)同四一年分における預金入金のうち入金経路不明額明細は別表一〇(預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表昭和四一年分)のとおりであり、同年分における預金出金のうち支出先不明額明細は別表一一(預金出金のうち支出先不明の金額抽出表昭和四一年分)のとおりであることがそれぞれ認められる。

ところで、一般に商人の利用する預金の資金源は売上金に依存する度合が強く、従つて、売上金の記帳がその一部にとどまるときは簿外の売上金は簿外の別口預金に結びつき易いことは既に述べたとおりであるところ、以上の各事実によれば、原告は昭和三九年以前から係争各年にかけて多数回にわたつて原告名義または前記仮名預金に金銭を預け入れ、殊に三洲庵開店日である昭和四〇年一〇月一五日直後に原告は小林啓弘、岡本昌宏、高木康弘、中村勝、さらに同四一年五月には増田弘子、柴田恵子、浅野恵美子および大橋良夫各名義の日掛預金を新規に開設し、以後、継続的に預け入れをなしているのであつて、原告、小林啓弘および前記仮名による各預金の金銭預け入れ部分について個別的に入出金を特定しえない本件においては、他に反対の証拠がない限り、原告経営の仲よ志および三洲庵からの売上金をもつて預け入れたものとみるのもやむを得ないといわなければならない。

3.(イ) さて、原告は、重複計算上の除算分について、昭和三九年期首に土地売却代金五七万円と前年からの手持金一九七万円(高光積名義普通預金のうち昭和三八年一一月四日から同年一二月末までの引出分)計二五四万円の手持現金があるから、この額を重複除算分に加算すべきである旨主張する。而して、成立に争いのない甲第四号証の一、二、同第五号証の一、二および原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和三八年一二月二一日その所有にかかる愛知県豊橋市西高志町字沢向一〇四番一および同一〇四番二の宅地二筆を訴外小林俊一に対し計五七万円で売却し、これを昭和三九年期首当時現金のまま手持に所持していたことが認められ、右認定を覆すにたりる証拠はない。

しかし、前記高光積名義預金からの引出合計一九七万円については、原告本人尋問の結果によつてもこれを認めるに十分ではなく、他に適確な資料はない。

従つて、原告主張の手持金額のうち右五七万円だけが昭和三九年分における重複計上の除算分に加算されるべきである。

(ロ) また、成立に争いのない甲第八、第一〇号証および証人杉田正造の証言によれば、原告は昭和四〇年九月一六日 本田技研の持株一、〇〇〇株を代金二五万六、〇〇〇円で、同年一〇月一八日東洋工業の持株一、〇〇〇株を代金一三万五、一〇〇円で、同月二六日藤田組の持株三、〇〇〇株を代金四七万四、〇〇〇円でそれぞれ譲渡したことが認められるから、右合計八六万五、一〇〇円が昭和四〇年分における重複計上の除算分に加算されるべきである。

4. 原告は、さらに以下のとおり加除算すべきものがある旨主張する。

(一)  入金経路不明の額について。

(イ)  原告は、原告の仮名預金の入金中、従業員に対する立替金の返済入金として、昭和三九年分一七万三、一〇〇円同四〇年分二〇万〇、四四六円、同四一年分六万四、七八〇円があるから、これらを各年分の入金経路不明額から除くべきである旨主張するが、本件全証拠によるもこれを認めさせるにたりる適確な資料はない。

(ロ)  原告仮名預金の入金中、銀行借入金と土地購入代金との差額一一万円(昭和四〇年一〇月三一日預け入れ)があるから、この分を昭和四〇年分の入金経路不明額から除くべきである旨主張するが、本件全証拠によるもこれを認めさせるにたりない。

(ハ)  原告は、小林啓弘名義の預金は原告のものではなく訴外啓弘の預金であるから、入金経路不明額から昭和四〇年分四八万四、五〇〇円、同四一年分二五一万六、四六一円を除くべきであると主張するが、小林啓弘名義の預金は原告に帰属するものとみるべきであること前記二5において判示したとおりであるから、原告の右主張は採用することができない。

(二)  現金支出総額について。

(イ)  原告は、被告の家事費計上額が過大であり、昭和三九四三万一、六五四円、同四〇年分八一万七、六二〇円、同四一年五九万二、〇六〇円を現金支出総額からそれぞれ減額すべきである旨主張する。

しかしながら、被告は昭和四六年一月二九日付準備書面(二)において昭和三九年分として九一万一、六五四円、同四〇年分として一二九万七、六二〇円、同四一年分一〇七万二、〇六〇円と主張したのに対し、原告は昭和四六年五月二八日付準備書面(第二回)第一の四(一)B項において被告の右主張額を認め、右準備書面は昭和四六年五月二八日の第九回口頭弁論期日において陳述されていることが記録上明らかであるから、原告はこれを自白したものというべきである。

従つて、原告が家事費を月四万円とする新たな主張をなすのは自白の撤回にあたるというべく、これに対し被告は異議を述べるので、右自白が真実に反しかつ錯誤に基づいてなされたものであるか否かについて判断するに、成立に争いのない甲第一五号証および証人杉田正造の証言によつても右自白が真実に反する旨の証明が十分ではなく、他に本件全証拠によるもこれを認めさせるにたりる適確な資料はないから、その余の点につき判断するまでもなく、右自白の撤回は許されないというべきである。

(ロ)  次に原告は、三洲庵関係の仕入れ・経費の支払いは訴外啓弘がなしたものであるから、現金支出総額から昭和四〇年分として四九万三、〇九八円、同四一年分として三九三万八、九九九円を除くべきである旨主張するが、その事実を認めさせる証拠はなく、却つて三洲庵の実質的な経営者は訴外啓弘ではなく原告自身とみるべきであることは既に認定したとおりであり、従つて、右仕入れ等の支出は原告がその計算においてなしたものとするのが相当であるから、原告の右主張は採用することができない。

(三)  重複計上の除算について。

(イ)  原告は、訴外松橋悟に対する貸付金の返済入金として、昭和三九年分九〇万円(昭和三九年三月一六日六〇万円、同年一二月二四日三〇万円)、同四一年分四〇三万円について、右各年分の重複計上の除算分に加算されるべきである旨主張する。

而して、成立に争いのない甲第六号証および証人松橋悟の証言および成立に争いのない甲第七ないし第一〇号証ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告の株式売却と訴外松橋に対する貸付との関連につき、原告は昭和三六年一二月二七日豊田工機、松坂屋、日本楽器の各持株計六、〇〇〇株を計二九七万一、〇〇〇円で譲渡し、その後昭和三七年一月八日および同月一一日に計一四〇万円を貸付けたこと、昭和三七年一月下旬頃に雪印乳業外一銘柄計五、〇〇〇株を計八六万三、八五〇円で譲渡し、その後同年三月五日に六〇万円を貸付けたこと、および同年四月下旬頃に日本楽器の持株一、五〇〇株を計九三万〇、五〇〇円で譲渡し、その後同年五月一四日に三五万円を貸付けたこと等が窺われ原告の主張に沿うようであるが、一方、原告は右各株式を売却後訴外松橋に対して貸付をなす以前に、(一)昭和三七年一月四日および同月六日に日本碍子外一銘柄計五、〇〇〇株を計三四〇万円にて、(二)同年三月三日に天竜楽器一、〇〇〇株を六六万四、〇〇〇円にて、(三)同年五月一三日に同銘柄五〇〇株を三五万二、〇〇〇円にてそれぞれ取得していることが認められるから、これらの事実によると、原告が貸付金の資金源である旨主張する株式の売却代金は訴外松橋に貸付けられる以前に原告自身の株式取得のために使われたとみる余地があり、また、訴外松橋の株式取得状況と借用金額との関連につき、中村尚久、光部敬各名義のものを含め訴外松橋が取得した株式の総代金は三四二万余円であつて、原告主張の貸付額合計四九三万円にはほど遠く、さらに、通常の貸付に伴う契約書はもとより担保の定めもなく、本件全証拠によるも貸付・回収の事績が明らかでない点などに徴し、原告の前記主張事実は認めることができず、その他これを認めさせるにたりる適切な証拠はない。

(ロ)  原告は、定期預金の解約入金である昭和四〇年八月三一日三〇〇万円、同年一二月六日一〇〇万円等について、同年分における重複計上の除算分に加算すべきである旨主張する。而して被告においても右解約の事実を認めるところであるが、成立に争いない乙第二五号証の二によれば、右定期預金解約金は原告使用の庭石、植木の支払いと原告長女の嫁入り仕度の支払いに当てられたと原告自ら供述していることが認められるから、これらはいずれも家事費に属し事業所得の計算には直接関係がないというべきである。従つて右主張も採用できない。

(ハ)  原告は、小林啓弘名義の預金は原告の預金ではなく訴外啓弘のものであるから昭和四一年分の使途不明分から八〇万一、八〇〇円を除くべきである旨主張するが、小林啓弘名義の預金が原告に帰属するものであること前叙のとおりであるので、右主張もまた採用することができない。

4. 以上認定の事実に基づき係争各年分の売上金を計算すると、

(イ) 昭和三九年分

A 入金経路不明額 六九四万二、八五〇円

B 現金支出総計 六三七万三、六一八円

C 重複計上の除算 三三二万七、一八〇円

使用不明金につき 一八四万七、一八〇円

土地売却代金につき 一四八万円

従つて、A+B-Cの算式により得られた九九八万九、二八八円が昭和三九年分の売上金額であり、

(ロ) 同四〇年分

A 入金経路不明額 九九八万〇、〇八〇円

B 現金支出総計 八五九万三、四二五円

C 重複計上の除算 六九八万六、一〇〇円

使途不明金につき 四四七万六、一〇〇円

土地売却代金につき 二五一万円

従つて、前同様の算式により得られた一、一五八万七、四〇五円が昭和四〇年分の売上金額であり、

(ハ) 同四一年分

A 入金経路不明額 一、三三三万八、三四一円

B 現金支出総計 一、一五五万五、六八〇円

C 重複計上の除算(使途不明金) 六〇三万五、四六七円

従つて、前同様の算式により得られた一、八八五万八、五五四円が昭和四一年分の売上金額となる。

5. 営業所得金額

昭和三九年分における原価、総経費および専従者控除額はそれぞれ別表一六(各年分営業所得計算表)一、昭和三九年分の各当該欄のとおりであること、同四〇年分における原価につき三洲庵および原告経営にかかる仲よ志分の合計額が二九九万九、〇五三円であり、総経費につき仲よ志および三洲庵の合計額が三九二万三、五七九円であり、専従者控除額が一一万二、五〇〇円であることならびに同四一年分における原価につき右二店の合計額が四六三万九、〇九〇円であり、総経費の二店合計額が六七二万一、一三三円であり、専従者控除額が一四万二、五〇〇円であることはいずれも当事者間に争いがない。そして、右三洲庵の仕入れ・経費支払いが実際には原告がなしたものとみるべきこと前記三、4.(二)(ロ)において説示したとおりである。従つて、係争各年における営業所得金額は前記別表一六の各当該欄のとおり、昭和三九年分は四三一万七、一一五円、同四〇年分は四五五万二、二七三円、同四一年分は金七三五万五、八三一円である。

6. 所得税額および過少申告加算税額の適否について。

係争各年分における社会保険料、損害保険料、扶養控除額、基礎控除額、昭和三九年分および同四〇年分における配当所得金額、同四一年分における配偶者控除額が別表一(課税処分表)および別表一七(総所得金額および課税総所得金額計算表)の各当該欄のとおりであることは当事者間に争いがないが、係争各年分における医療費控除の点についてはこれを認めさせるにたりる証拠はない。従つて、係争各年分における総所得金額および課税総所得金額は前記別表一七のとおり、昭和三九年分がそれぞれ四三三万二、六一五円、四〇三万八、一二五円、同四〇年分がそれぞれ四五七万一、二七三円、四二二万二、一一三円、同四一年分がそれぞれ七三五万五、八三一円、六八八万三、〇四一円となる。

以上認定したところによれば、昭和三九年分につき、更正にかかる総所得金額四六八万〇、七三七円のうち、右の四三三万二、六一五円を超える部分、所得税額のうち課税総所得金額を四〇三万八、一二五円として算定した税額を超える部分および過少申告加算税一、〇〇〇円の賦課処分中右所得税額の超過部分にかかる部分、昭和四〇年分につき、更正にかかる総所得金額五三六万四、四五三円のうち、四五七万一、二七三円を超える部分、所得税額のうち課税総所得金額四二二万二、一一三円として算定した税額を超える部分および過少申告加算税一、八〇〇円の賦課処分中右所得税額の超過部分にかかる部分はいずれも違法であるから取消されるべきである。しかしながら、昭和四一年分における更正処分および過少申告加算税賦課処分は、原告の総所得金額について、前示七三五万五、八三一円の範囲内である六六八万四、四八九円としてなされたものであるから、正当であるといわなければならない。

六、重加算税賦課処分について。

名古屋相互銀行豊橋支店に対する高光積、野沢実各名義の普通預金、佐藤太吉、岡本昌宏、高木康弘、中村勝、増田弘子、柴田恵子、浅野恵美子および大橋良夫各名義積立預金が原告の仮名預金であることは当事者間に争いがなく、鳥山仁、白川幸男、太田賢および山本洋各名義の積立預金が原告の仮名預金と目すべきであることは既に認定したとおりであるところ、原本の存在および成立に争いのない乙第二、第三号証、同第一四ないし第二三号証、証人小柳津一成の証言により真正に成立したものと認められる乙第一〇ないし第一三号証および同第三六号証、証人今井英二、同西江進および同小柳津一成の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、原告はその各仮名預金を名古屋相互銀行豊橋支店に開設し、仲よ志および三洲庵の日々の売上金から、別表一八(各年分仮装隠ぺい売上金額計算表)のとおり、昭和三九年分につき合計四一五万三、一九六円、同四〇年分につき合計六一一万四、三四〇円をそれぞれ前記各仮名預金口座へ適宜預け入れこれを隠ぺいしたものと推定するのが相当である。

もつとも、この点につき原告本人の尋問結果中「税務署員の指導に従つて本件各確定申告をなしたに過ぎない」旨の供述があるが、この一事があるからといつてただちに右認定事実を否定するものではなく、他にこれを左右するにたりる証拠はない。

以上の事実によれば、原告は昭和三九年ないし同四一年の各売上金額中、各年それぞれ四一五万三、一九六円、四六三万七、四一四円、六一一万四、三四〇円を隠ぺいしたところに基づいて課税総所得金額をそれぞれ金五二万二、二〇〇円、金五七万二、一〇〇円、金一〇二万二、八〇〇円とする各所得税確定申告書を提出したものといわなければならない。

そうすると、昭和四一年分について仮装隠ぺい売上額を金六一一万四、三四〇円としてなされた重加算税賦課処分は正当であるが、同三九年分について仮装隠ぺい額を金四四二万二、九七七円としてなされた重加算税賦課決定額三二万三、一〇〇円(但し、裁決により一部取消された後のもの)のうち、四一五万三、一九六円の超過部分にかかる部分、同四〇年について仮装隠ぺい売上額を五〇五万四、六五二円としてなされた重加算税賦課決定額四三万九、八〇〇円のうち、四六三万七、四一四円の超過部分にかかる部分はいずれも違法であるから取消されるべきである。

七、結論

以上の次第で、原告の本件各請求は前記認定の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 鏑木重明 裁判官 樋口直)

別表一

課税処分表

第一、昭和三九年分

<省略>

<省略>

第二、昭和四〇年分

<省略>

<省略>

第三、昭和四一年分

<省略>

注「営業所得」とは、事業所得をさらに細分したものである。

別表二 預金運用事績表

<省略>

(No.2)

<省略>

(No.3)

<省略>

(No.4)

<省略>

(No.5)

<省略>

(No.6)

<省略>

別表三 積立預金の設定状況表

<省略>

別表四

各年分売上金額の計算表

<省略>

注 経費の現金支出額が別表一二各年分営業所得計算表の当該各年分経費と一致しないのは、現金支出に関係のない減価償却費および預金から支出した経費等を差引いたためで内訳は次のとおりである。

<省略>

<省略>

別表五

預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表(昭和三九年分)

一、名古屋相互銀行豊橋支店 小林敏一 普通預金

<省略>

二、名古屋相互銀行豊橋支店 高光積 普通預金

<省略>

<省略>

三、名古屋相互銀行豊橋支店 諸預金

<省略>

入金経路不明の金額総計(<ア>~<ウ>欄の「差引入金経路不明のもの」欄の計) 六、九四二、八五〇円 <エ>

別表六

預金出金のうち支出先不明の金額抽出表(昭和三九年分)

一、名古屋相互銀行豊橋支店 小林敏一 普通預金

<省略>

<省略>

<省略>

二、名古屋相互銀行豊橋支店 高光積 普通預金

<省略>

<省略>

使途不明金の総計(<ア>および<イ>欄の「差引使途不明金」欄 一、二七七、一八〇円 <ウ>の計)

別表七

預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表(昭和四〇年分)

一、名古屋相互銀行豊橋支店 小林敏一 普通預金

<省略>

<省略>

二、名古屋相互銀行豊橋支店 小林啓弘 普通預金

<省略>

三、名古屋相互銀行豊橋支店 高光積 普通預金

<省略>

<省略>

四、名古屋相互銀行豊橋支店 諸預金

<省略>

入金経路不明のものの総計(<ア>~<エ>欄の「差引入金経路不明のもの」欄の計) 九、九八〇、〇八〇円 <オ>

注 高木康弘、中村勝、岡本昌宏は原告の仮名である。

別表八

預金支出のうち支出先不明の金額抽出表(昭和四〇年分)

一、名古屋相互銀行豊橋支店 小林敏一 普通預金

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

二、名古屋相互銀行豊橋支店 小林啓弘 普通預金

<省略>

三、名古屋相互銀行豊橋支店 高光積 普通預金

<省略>

<省略>

<省略>

使途不明金の総計(<ア>~<ウ>欄の「差引使途不明金」欄の計) 三、六一一、〇〇〇円 <エ>

別表九

土地売却代金の入金状況表

<省略>

<省略>

別表一〇

預金入金のうち入金経路不明の金額抽出表(昭和四一年分)

一、名古屋相互銀行豊橋支店 小林敏一 普通預金

<省略>

二、名古屋相互銀行豊橋支店 小林啓弘 普通預金

<省略>

三、名古屋相互銀行豊橋支店 小林啓弘 普通預金

<省略>

四、名古屋相互銀行豊橋支店 高光積 普通預金

<省略>

五、名古屋相互銀行豊橋支店 野沢実 普通預金

<省略>

<省略>

六、名古屋相互銀行豊橋支店 諸預金

<省略>

入金経路不明のものの総計(<ア>~<カ>欄の「差引入金経路不明のもの」欄の計 一三、三三八、三四一円 <キ>

注 増田弘子 柴田恵子 浅野恵美子 大橋良夫 山本洋 太田賢 白川幸男 鳥山仁 は原告の仮名である。

別表一一

預金出金のうち支出先不明の金額抽出表(昭和四一年分)

一、名古屋相互銀行豊橋支店 小林敏一 普通預金

<省略>

<省略>

<省略>

二、名古屋相互銀行豊橋支店 小林啓弘 普通預金

<省略>

<省略>

<省略>

三、名古屋相互銀行豊橋支店 小林啓弘 普通預金

<省略>

四、名古屋相互銀行豊橋支店 高光積 普通預金

<省略>

五、名古屋相互銀行豊橋支店 野沢実 普通預金

<省略>

使途不明金の計(<ア>~<オ>欄の「差引使途不明金」欄の計) 六、〇三五、四六七円 <カ>

別表一二

各年分営業所得計算表

一、昭和三九年分

<省略>

<省略>

二、昭和四〇年分

<省略>

<省略>

三、昭和四一年分

<省略>

<省略>

別表一三

仮装隠ぺいにかかる売上金額計算表

<省略>

<省略>

別表一四

重加算税計算表

<省略>

別表一五

原告主張の営業所得計算表

一、昭和三九年分

(一) 売上金額の計算

<省略>

<省略>

二、昭和四〇年分

(一) 売上金額の計算

<省略>

<省略>

三、昭和四一年分

(一) 売上金額の計算

<省略>

<省略>

別表一六

各年分営業所得計算表

一、昭和三九年分

<省略>

<省略>

二、昭和四〇年分

<省略>

三、昭和四一年分

<省略>

別表一七

総所得金額および課税総所得金額計算表

<省略>

<省略>

<省略>

別表一八

各年分仮装隠ぺい売上金額計算表

<省略>

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